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PCX ELECTRIC 特別試乗インプレッション


2018年11月30日より企業や個人事業主向けとしてリース販売を開始された「HONDA PCX ELECTRIC(エレクトリック)」。
2018年だけでも、ダブルクレードル式に改良されたフレームを搭載し、車両安定性の高さやスマートキーなどの便利な先進装備を搭載し評判が高い「新型PCX125 & PCX150」に続き、7月には量産二輪車として初のハイブリッド車「PCX HIBRID(ハイブリッド)」と矢継ぎ早に小型スクーター市場に話題商品がリリースされてきました。

そんなPCXシリーズの最新モデルが、完全な電動バイク(EV)として登場したとなれば、
「バイク専門ロードサービスの会社に勤める社員」という立場の前に、学生時代からバイクに乗って自分でメンテナンスやカスタマイズをしてきた、「バイク好き」「メカ好き」として、とても気になる存在です。

プレスリリースの車両写真を見ても、他のPCXシリーズと大きな違いがないように見えますが、「実際に見て、触ってみないと気が済まない!」
そんなことを勝手に思っていたら、なんと、HONDA様のご好意で製品版の車両をお貸しいただけるという幸運に恵まれましたので、一般ライダーとして、インプレッションをお届けできればと思っております。

と、大げさに書いておりますが、インプレ記事素人のため、読みづらい点などはご容赦ください。

ま、マフラーがない・・・



完全なEVとして発売された「PCX ELECTRIC(エレクトリック)」
パールグレアホワイトの白く輝く車体に、爽やかなブルーの差し色がEVのエコな感じをアピールしていますが、それ以外は他のPCXと同じ・・・と思いながらみていたら、どうも車両の後部に強烈な違和感を感じるんです。明らかに後輪周辺がスッキリしています。
「あ、マフラーがないのか・・・」
EVなんだから当たり前なのですが、いつも見慣れているPCX(街中でもたくさん走っていますよね?)だったために、違和感を感じざるを得ませんでした。

マフラーが無い分、他のPCXよりも凝ったデザインの右側スイングアームが輝いています。
また、リアショックのスイングアーム取り付け部分が通常のPCXの位置と違い、リアホイールのアクスルよりも後ろ側に延長されており、リアショックの角度が通常よりも寝ていますね。

スイングアーム左側もスッキリ!

通常のPCXや他のスクーターも含めスイングアーム左側にはCVTのベルトやプーリーなどを配置し、スイングアームを兼ねて、エンジンからの回転を後輪に伝える構造になっています。


画像はPCX HYBRID


また、エアクリーナーが取り付けられている事もあるなど、総じて後輪スイングアームの周りはしっかり複雑な形状をしています。



それに比べると、モーターを内臓しているとはいえ、細身でシンプルですね。
これは、電動バイクの大きな特徴とも言えます。
基本的に駆動するモーターまでは配線のみで接続ができるため、スイングアームが文字通りスイングするアーム機能と配線のステーの役割を担うだけで済むからです。

さらに、今回のPCX ELECTRICでは駆動のキモとなるモーターを新開発のIPMモーター(Interior Permanent Magnet=磁石埋め込み型)構造を採用した事で、高い効率と出力を追求できるとともに、温度制御や細かい通電制御を行なっているため、冷却機構などの簡略化が可能になり、見ての通りコンパクトでスマートな後輪周りに仕上がっているようです。



また、シート下にバッテリーパックを2個収納するため、リアタイヤの干渉を避け、可動域を確保するためにスイングアームが通常のモデルよりも65mm伸びている事や、最近流行りのハガータイプと呼ばれるスイングアームマウントのナンバープレートホルダー(フェンダー機能も兼用)もよりスッキリした後輪周りを強調していると思います。

スイングアームは65mm伸びていますが、車両の全長は35mm程度しか変更はありません。
タイヤサイズ等もガソリン車と変更はないようですね。

フレーム形状はダブルクレードル構造!

フレームの基本形状はガソリン車と共通ですが、EVシステムのパワーユニット周りを専用設計のハンガーで搭載する形に変更されています。



ラバーブッシュを片側2個ずつ装備しているとのことで、振動の少ないモーターの特性と合わせて乗り心地が良いです。

重量は若干増加・・・でも?

マフラーが無くなったことや燃料タンクが無くなったことで、重量は軽くなったのかなと思っていましたが、PCX125の130kgから144kgと14kg増となっていました。

取り回しでは、センタースタンドをあげる時や大きく車体を傾けた時にだけ、やや重さを感じましたが、これはバッテリーの搭載位置の関係で重心が高くなっているためで、動き出してしまえばパワフルなモーターの特性もあり、全く違和感はなく軽快でした!

バッテリーとEVシステムの仕組みについて

PCXのデザインに納まるように設計されたEVシステムには着脱式の「モバイルパワーパック」と名付けられたバッテリーを2個搭載しています。
このモバイルパワーパックはリチウムイオンバッテリーを採用して新開発され、1個あたりの電圧を48V、走行時には直列接続することによって96Vのパワフルなシステムとして作動するように設計されています。



一充電あたりの航続距離は時速60kmの定置走行で約41kmを実現しており、数値を一見すると少なく感じるかもしれませんが、一般のユーザーが日常生活で実用的に走行する範囲の距離であればクラスを考えても必要十分と思われます。

モーター出力は最大4.2kW(定格出力:0.98kW)で日本の免許制度だと原付二種相当に該当し、免許も原付免許ではなく小型限定免許以上が必要とされます。
(フロントフェンダーとリアフェンダーに原付二種をアピールするステッカーとピンクナンバーが輝いています。)

電気で動くモーターはガソリンエンジンよりもエネルギー効率が高く、そのフラットなトルク特性から、街中の停止・発信を繰り返すような環境では、快適さが際立つはずです。

ガソリン車ではECUに当たる車載コンピューターもPCX ELECTRICでは「Power Control Unit = PCU」と呼ばています。
ガソリン車のECUと同じように制御しているのですが、基本的にエンジンを制御しているECUに対し、車両全体の電源システム(電気を使う部分はほぼ全部)を制御している形になります。



PCUの制御はモバイルパワーパックの接続方法にも及び、走行時(=パワーが必要な状況)では、モバイルパワーパックを直列に接続することで電流の損失を最低限に抑えながら、システム全体の効率を高める一方、充電時(=パワーよりも充電効率や質が求められる状況)においては、PCUがモバイルバッテリーパックを並列接続の状態に制御しています。

バッテリーはどれだけ緻密に制御をしても、ユニット単位で放電状態が微妙に異なってしまう為、並列に接続して、PCUが管理をしながら充電することによって2個のモバイルパワーパックを均等に充電することを可能にしているとの事です。

なお、回生システムのような走行時に充電をする機構は採用されていませんでした。

充電方法がなんと2種類!

モバイルパワーパックという名前の通り車体からバッテリーを取り外し、専用の充電器(家庭用100Vで使用可能)を使用することでバッテリーを1つずつ充電することが可能です。
専用の充電器を使用した場合の1個あたりの充電時間は約4時間となっています。



モバイルパワーパック着脱には、新開発の着脱方式が採用されています。
カバンのハンドルのようなロックを前に倒してロック解除、後ろに引っ張ってロック、これだけです。
バッテリーは1個当たり約10kgあるので、着脱の際は落としてしまったり、腰を痛めてしまわない様に要注意ですね。

また、ガソリン車のPCXで給油口があった場所がそのまま蓋になっていたので、「単純に流用しているのかな・・・」なんて非常に失礼なことを考えながら蓋を開けてみると、2メートルほどの充電ケーブルが内臓されていました。
モバイルパワーパックは車体に取り付けたまま、家庭用の100V電源のコンセントで充電することが可能です。
この場合の満充電(バッテリー2個まとめての充電時間は約6時間となっていました。)



2種類の充電方法が用意されているというのは素晴らしい設計だと思います。
というのも、マンション等で充電する環境が簡単に用意できない場合はモバイルパワーパックを取り外して自宅で充電するという選択ができるし、戸建てや事業所等で充電環境が用意できるのであれば、駐車場に止めているときにコンセントを繋いでおくだけという選択もできます。

最近の戸建て住宅であれば、庭先や玄関周りに外でコンセントが使えるようにあらかじめ工事をしているところも多いようですし、4輪の電気自動車のように専用充電設備の工事が必要ないのが大変気軽ですね。

また、配送業務や出張作業員の足として使用を想定した時は、事業所に戻った際に予備のモバイルパワーパックと交換して即再出動という使い方も可能なため、車体仕様に使い方を制限されることなく、柔軟な運用ができることに繋がると思います。

海外の電動バイクメーカーが推し進めているバッテリースタンドを利用したシェアリングシステムもこのモバイルパワーパックの仕様であれば構築できそうですし、1ユーザーとして、勝手な妄想をしてしまいます。

充電コードについて、1点だけわがままな希望をいうと、掃除機とかのように充電コードが巻き取られるような機構があると嬉しいなと思いました。

シート周りをチェック!流石にシート下は小物入れに・・・

2個のモバイルパワーパックが搭載されていると聞いてシート高が変更されているのでは?
と思いましたが、特に変更なく、スペック場ではガソリンモデルよりも4mm低くなっていました。
特にリアショック周りやスイングアーム周りに設計変更があるので、誤差の範囲といったところで、身長183cmの筆者が跨っても両足がべったりと地面につきますし(←当たり前)、身長170cmの別の社員に跨ってもらっても余裕でした。

シート形状はガソリン車と同じ形状で、座り心地は申し分なく、快適ですが、シート下は流石にモバイルパワーパック2個が搭載されている都合上、ヘルメットは入りそうにありません。



グローブ等の簡単な小物入れとして割り切る必要がありそうです。

灯火類はシリーズ共通のLED・・・ただし、粋な演出が!

灯火類は基本的にガソリン車と共通の形状でLEDが採用されています。
ヘッドライト上部には車体のところどころにある差し色と共通のブルーのアイラインが装着されておりガソリン車との明確な差別化とエコで爽やかなイメージです。

また、ヘッドライトのポジションランプ裏側のブラケット部とテールランプのストップランプ点灯部のインナーレンズを共にブルーにしていることで、灯火類が消灯している時にその部分がブルーに見える粋な演出が仕込まれています。



メーターは専用設計、ハンドル周りはバイワイヤ化で先進的に!

EVシステム全体の情報をわかりやすく表示できる様に専用設計のメーターになっています。
車体の意匠と共通の爽やかなブルーの差し色の中には、スピードメーターや時計といった、基本的な情報をはじめ、EVシステム特有のバッテリー残量や制限モード(出力が制限された時に点灯します)、充電中に点灯するインジケーターなどが見やすく配置されています。

ハンドル周りは大きな変更はありませんが、スロットルが、バイワイヤ化され、スロットルケーブルではなく電気信号でスロットル開度などをPCUに伝える仕様に変更されています。

アクセサリーソケット付きのグローブボックスはガソリン車と共通で、キーはスマートキーシステムが採用されています。

乗り物というよりも走る電子機器!?

スマートキーをカバンの中に入れたまま、メインスイッチで電源を入れるとメーターに起動画面が表示されます。



さらに走行するためにスタータースイッチ(ガソリン車で言うところのセルスイッチ)を押すんですが、システム全体の電源をオンにしてから完全起動するまでに数秒待つ必要があったのが印象的でした。
乗り物と言うよりも電子機器を起動している感覚が近いですね!

取り回しでは、静止の状態から押し始める時に車両の重さとモーターの磁力の抵抗を感じましたが、一度転がり初めてしまえば、通常のガソリン車となんら違いはありませんでした。

また、重さを感じると書きましたが、あくまでガソリン車に比べてなので、PCX ELECTRIC単体で車両を操作している際には感じることはほぼ無いと思われるほどの差です。

力強い発進加速に驚き!

EVシステムと言うことをハッキリ実感するのは、発進の瞬間です。

2輪4輪問わず、EVのインプレを読むと必ず登場するベタな表現になってしまうのですが、
とにかく走り出しの力強さが印象的で、加速の状態までがスムーズでフラットに感じました。

これはモーターの特性に寄るところが大きく、エンジンのようにパワーバンドと呼ばれるような領域がハッキリとしておらず、全ての領域で回転数に比例してパワーが発揮されるので、エンジンを搭載している車両に慣れきっている筆者は、はじめは違和感を感じましたが、慣れてしまうと、自分のガソリン車に乗った時に逆に違和感を感じてしまうほど、扱いやすい発進加速です。

街中の法定速度上限である時速60km向けて、しばらく加速すると、途中からは「思ったほどスピードが出ていないな」といった感じがしました。
メーターを見ると時速50km〜60km出ているので、このクラスとして遅いわけではなく、単純に出足の力強さがスピード感を感じにくくさせてしまっているのかもしれません。

スペックから見ても、最高出力はガソリン車に比べると半分程度に抑えられているのですが、注目するべき部分は「最大トルク」です。
PCX125に比べて1.5倍、免許区分や車両区分が変わるPCX150と比べても1.3倍ほどのトルクを発生しています。



PCX ELECTRIC PCX125 PCX150
最高出力
(kW[PS]/rpm)
4.2[5.7]/5,500 9.0[12]/8,500 11[15]/8,500
最大トルク
(N・m[kgf・m]/rpm)
18[1.8]/500 12[1.2]/5,000 14[1.4]/6,500

この驚異的トルクと、ベルトやプーリーなどのスクーター特有のCVT機構を必要としないほぼ直結の駆動により、リニアな発進加速が気持ちよく感じます。
もちろん、他車の流れを邪魔することなく走ることができます。

どうしてもバイク好き、メカ好きとしては、スペック上の最高出力に目が行きがちなのですが、街中や住宅街のような環境をメインに走るには、最大出力よりも最大トルクがとても重要な数値なんだなと再認識した素晴らしい試乗経験でした。

スロットルを戻した際のエンブレ(あ、モーターだから「モーブレ・・・?」)の挙動は全く違和感がなく、安心してスロットルの開閉ができ、メリハリのある運転ができました。
この辺りはモーターの制御やPCUの制御が高レベルで熟成されているなと感じ、
今後、航続距離のアップなどを目的に回生システムのような機構が採用された場合の制御も、是非見てみたいなと、またもや勝手な妄想が頭をよぎりました。

乗り心地は上質で快適!

コーナリングもこのトルク特性がとても扱いやすく、安定しているため、自分の運転技術が向上したような感覚になりましたし、マンションの駐車場で必要に迫られUターンなども経験しましたが、取り回しに違和感はなく、14kgの重量増の影響は感じる事もありませんでした。

また、ガソリン車であれば、駆動系やエンジン、マフラーがあるはずのスイングアーム周りがモーターと配線のみとコンパクトで軽量になった事でバネ下が大幅に軽量化された事になり、リアショックがしっかり動いているのが確認できました!

また、専用設計のパワーユニットのハンガーやゴムブッシュの採用もあり、乗り心地はガソリン車よりもさらに向上しているようです!

延長されたホイールベースと、スイングアーム周りの軽量化により車両全体として少し前輪荷重になっているので、ガソリン車に比べると、フロントホイールから伝わる路面コンディションがほんの少しだけダイレクトに感じました。
筆者は身長が183cmと大柄な事もあり、もう少し後ろに座れると、さらに乗り心地がよくなるように感じました。

走行音はほぼ無音?!

ガソリン車に乗り慣れているライダー(筆者も含む)が気をつけなければいけないのは、排気音やエンジン音がしない事だと思います。

どうしてもバイクは排気音やエンジン音が大きいものなので、嫌でも街中や住宅街で歩行者に気づいてもらえます。

しかし、電動バイクはモーターの「キーン」という高周波のような音以外はタイヤの摩擦音しか聞こえないため、試乗中も何度か、歩行者を追い抜くまで気づかないことがあり、環境によっては、歩行者が不意にバイクの前に飛び出してしまう可能性も出てくるかもしれません。
そのため電動バイクライダーはガソリン車以上に、街中や住宅街での歩行者、自転車の挙動に注意し、追い越す場合は十分な安全マージンをとるなどより注意をする必要がありそうです。

もちろん、走行音が静かなことは大変歓迎すべきことで、早朝や深夜に閑静な住宅街を走行する際、周りの住民に迷惑をかけない走行が可能になることで、一般ユーザーだけでなく、新聞配達や郵便配達、そのほか近年急速に拡大しているフードデリバリーサービスなど活用が広がりそうです。
(個人的には、朝早くの新聞配達のカブの音も大変好きなので、複雑ではありますが・・・)

また、自分の車両から発する振動や騒音がほぼ無いので、他車(人、自転車も含む)の挙動には比較的気付きやすく、ライダー本人に余裕があるような印象はありました。

当然ですが、アイドリングもありませんので、スタータースイッチを押した後も本当に発進できるのかドキドキしながら試乗開始しました。

航続距離は使い方次第!

実際の走行に近いWMTCモードでは約50kmの航続距離を確保できるそうですが、試乗した限りでは限界を感じるような場面に遭遇するほど走り回る時間は確保できず、十分な航続距離かは判断できませんでした。

筆者が会社の周りや通勤等で街中を走行した際の電費は、約10kmの走行で電力を22%消費していたので、おおよそ発表値どおりの40~45km程度の走行が可能だと推測しています。
車載充電コードを利用した場合、ゼロの状態から満充電まで6時間ということなので、片道20km程度の通勤等であれば十分ですし、前述の配送等での使用であれば事業所に予備のモバイルパワーパックと専用充電器を1セット(2個)を用意しておくイメージで良いかと思います。

電動バイクの真髄を見てしまった・・・

PCX ELECTRICは今のところ一般販売では無く、法人企業や個人事業主、官公庁等に限定したリース専用車とのことですが、一般ユーザーを対象に、モニターを募集して幅広く意見や情報収集をしていたり、地域限定でシェアリング利用やレンタル利用の実証実験も行われているようなので、今後の動向には要注目ですね!

また、モバイルパワーパックの形状を見ても、将来的にはバッテリー自体をシェアして、様々な車両が共通のバッテリーで運用できるようなサービスなど、バイクの乗り方が大きく変わる片鱗を見た気がします。

すでに海外ではバッテリーをシェアするスタンドをアチコチで見ることができるサービスも登場してきているので、日本のアチコチでモバイルパワーパックのステーションが見られて、「今走っているPCXが全て電動バイク?!」なんて未来も、もうすぐそこかもしれません。

車両自体はすでに非常に高い完成度なので、「早く個人向けにも販売されないかな?」と、とても楽しみになりました。


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